ルーズベルトへの手紙
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1945年3月26日未明、日本軍硫黄島守備隊は最後の組織的反攻を行い、栗林忠道陸軍中将、市丸海軍少将以下、数百名の残存部隊がアメリカ軍陣地へ総攻撃をかけた。
アメリカ人を構成する白人たちは、旧約聖書の時代から 「戦争とは、殺戮と 略奪と 強姦」 であると心得ていて、占領した地域では強姦と略奪を、殺戮した後には懐をまさぐるのが彼らの癖であった。
日本軍とは、この部分が決定的に違った。
近年、年老いた元アメリカ兵が「日本軍兵士の遺品(※ 武運長久の寄せ書きをした日章旗 など)を遺族に届けたい」という申し出があったと美談がましく新聞やテレビで報道しているが、実態は、そんなに美しいお話などではない。
米兵は殺戮した日本軍兵士の懐をまさぐり、衣服を引っぺがし、腕時計や万年筆、金歯や軍刀や銃弾だけでは飽き足らず、腹に巻いてあったお守りの日章旗まで「戦利品」として盗み取っていっただけの話である。
市丸少将は彼らの習性をよく心得ていた。
市丸少将は遺書としてアメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトに宛てた 『ルーズベルトニ与フル書』 をしたため、これをハワイ生まれの日系二世、三上弘文兵曹に英訳させ日本語 英語各一通を作り、アメリカ軍が将校の遺体をまさぐることを見越して、これを村上治重大尉に渡した。
村上大尉は最後の突撃の際にこれを懐中に抱いて出撃し戦死。
『ルーズベルトニ与フル書』 は目論見どおりアメリカ軍の手に渡り ( それ以外の金目のものはゆくへ知れず・・・)、
7月11日、アメリカで新聞に掲載された。
それは日米戦争の責任の一端をアメリカにあるとし、ファシズムの打倒を掲げる連合国の大義名分の矛盾を突くものであった。
『ルーズベルトニ与フル書』(現代語訳)
日本海軍市丸海軍少将が 「フランクリン ・ルーズベルト」 君に書を宛てる。
私は今、我が戦いを終えるに当たり一言貴方に告げることがある。
日本国が 「ペルリー(ペリー)」提督の下田入港を機とし、広く世界と国交を結ぶようになった時より約百年の間、国の歩みは困難を極め、自ら欲しないにも関わらず日清戦争、日露戦争、第一次欧州大戦(第一次世界大戦)、満州事変、支那事変を経て、不幸にも貴国と交戦することになった。 そして貴方は我々を、あるいは好戦的国民であるとし、あるいは黄禍論を用い貶め、あるいは軍閥の独断専行であるとする。
思いよらぬもの甚だしいと言わざるを得ない。 貴方は真珠湾攻撃の不意打ちを理由に対日戦争(大東亜戦争) 唯一の宣伝資料とするが、そもそもにおいて日本国が自滅を免れるためこの行動に出る他ないという程の窮地にまで追い詰めたような諸種の情勢というのは、貴方の最も熟知するものであると思う。
畏れ多くも日本天皇は皇祖皇宗建国の大詔に明らかなように、養成(正義)、重暉(明智)、積慶(仁慈)を三鋼(秩序)とする八紘一宇(天下を一つの屋根の下に)の文字によって表される皇謨に基づき、地球上のあらゆる人間はその分に従い、その郷土においてその生を生まれながらに持たせ、それによって恒久的平和の確立を唯一の念願になさったのに他ならない。
これは 「 四方の海皆はらからと思ふ世になど波風の立ちさわぐらむ 」 (意訳:人は皆家族であるのに、なにゆえ争わねばならないのか) という明治天皇の御製(天皇の詩)は貴方の叔父セオドア・ルーズベルト閣下が感嘆したものであるが故に、貴方もよく熟知しているのは事実であろう。
私たち日本人はそれぞれ階級を持ち、また各種の職業に従事するけれども、結局はその職を通じ皇謨、つまりは天業(天皇の事業)を翼賛(補佐)しようとするのに他ならない。
我ら軍人は交戦を以て天業を広めることを承るに他ならない。
我らは今、物量に頼った貴方の空軍の爆撃、艦隊の射撃の下、外形的に後ろへ退くもやむなきに至っているが、精神的にはついに豊かになり、心地ますます明朗になり、歓喜を抑えることができなくもある。
この天業翼賛の信念が燃えるのは、日本国民共通の心理であるが、貴方やチャーチル君は理解に苦しむところであろう。
今、ここに貴方達の精神的貧弱さを憐れみ、以下の一言を以て少しでも悔いることがあれば良いと思う。
貴方達のなすことを見れば、白人、とくにアングロサクソン(アメリカとイギリスの主な民族)が世界の利益を独占しようとして、有色人種をその野望実現のための奴隷として扱おうということに他ならない。
この為に邪な政策をとり有色人種を欺き、所謂悪意の善政を行うことで彼らを喪心無力化しようとしている。
近世に至り日本国が貴方達の野望に抗し有色人種、特に東洋民族を貴方達の束縛より解放しようと試みたところ、貴方達は少しも日本の真意を理解しようと努めることなくただ貴方達に有害な存在となし、かつて友邦とみなしていたにも関わらず仇敵野蛮人であるとし、公然として日本人種の絶滅を叫ぶに至った。 これは決して神意にかなうものではないだろう。
大東亜戦争によって所謂(いわゆる)大東亜共栄圏が成立し、所在する各民族はわれらの善政を謳歌しているから、貴方達がこれを破壊することが無ければ、全世界にわたる恒久的平和の招来は決して遠くは無いだろう。 貴方達はすでに成した。 十分な繁栄にも満足することはなく数百年来にわたるあなた方の搾取から免れようとするこれらの憐れむべき人類の希望の芽をどうして若葉のうちに摘み取ろうとするのか。
ただ東洋のものを東洋に返すに過ぎないではないか。
あなた方はどうしてこのように貪欲で狭量なのか。
大東亜共栄圏の存在は少しも貴方達の存在を脅威するものではない。 むしろ世界平和の一翼として世界人類の安寧幸福を保障するものであって、日本天皇の真意はまったくこれに他ならない。 このことを理解する雅量(器)があることを希望してやまないものである。
翻って欧州の事情を観察すると、また相互無理解に基づく人類闘争がいかに悲惨であるかを痛感し嘆かざるをえない。 今ヒトラー総統の行動の是非を云々するのは慎むが、彼の第二次世界大戦開戦の原因が第一次世界大戦の終結の際、その開戦責任の一切を敗戦国ドイツに押し付け、その正当な存在を極度に圧迫しようとした貴方達の処置に対する反発に他ならないということは看過できない。
貴方達の善戦によって力を尽くしてヒトラー総統を倒すことができたとして、どうやってスターリン率いるソヴィエト(※共産主義:著者注)と協調するのか。 世界を強者が独専しようとすれば永久に闘争を繰り返し、ついに世界人類に安寧幸福の日はないだろう。
あなた方は今世界制覇の野望が一応、まさに実現しようとしている。あなた方は得意げに思っているに違いない。 しかし貴方達の先輩ウィルソン大統領はその得意の絶頂において失脚した。
願わくば私の言外の意を汲んでその轍を踏まないで欲しい。
市丸海軍少将
( 『米国大統領への手紙』 平川祐弘 新潮社より引用 )
「正しい日本の歴史」 (目次)
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